中年期特有の心理的危機「ミッドライフ・クライシス」とは

仕事も私生活も順調だと思っていた自分の人生。しかし「本当にこのままでよいのだろうか」「悔いのない人生をおくれるのだろうか」と悩む30・40代以降が増えているといいます。

カナダの精神分析学者エリオット・ジャックはこの心理的葛藤を「ミッドライフ・クライシス」と名付けました。欧米ではすでにこの言葉が一般的になり、すでに社会問題として認知されています。

「人生に迷いが出ている」「これまで価値を感じていたものが急に無意味だと思うようになった」というあなたは、すでに「ミッドライフ・クライシス」になっているかもしれません。

男性は性的な行動に走りやすい

30代、40代に入ると、20代の頃に比べると精神的にも肉体的にも衰えを感じはじめて焦り、心機一転して人生を大きく変えようとする心理が働きます。

男性に多いのが、急にジムに通いはじめて体を鍛える、若い女性との不倫や遊び相手を探す、といった行動です。

男性としての「誇り」や「権威」を持ち続けたい、という欲求が仕事やプライベートに向かない場合、より簡単な方法として性的なものに走りやすくなります。
もともと性に対して積極的でなかった人が「セックス依存症」になったり、キャバクラや風俗通いを始めたりするのは、性的なものを満たすことで、自分の男性性を確認しようとしているのです。

特に既婚男性は、家庭や結婚生活の責任や縛りから解き放たれたい、独身男性のように自由を謳歌したい、という反動的な衝動にかられるようになり、それが女性遊びにつながりやすくなります。

また、この症状は性的な行動ばかりではありません。「自分は大丈夫」と思っていても、実際にはかなりの人が「ミッドライフ・クライシス」状態だといいます。
クライスラー社ジープが2000人の男性に調査を行った結果、以下のような症状が「ミッドライフ・クライシス」にあてはまると発表しました。

・アンチエイジングに興味をもつ、髪型を頻繁に変える
・転職や起業、独立を考えている
・新しいスポーツや珍しい競技をはじめる
・海外に滞在したいと考える
・最新のガジェットを常に追いかける
・同窓会や社会人サークルを主催するようになった
・Facebook、Twitterを始めた

女性の「ミッドライフ・クライシス」は深刻かつ複雑

現代の女性の生き方は多様化してきました。 仕事、結婚、子供…より多くの選択肢があるぶん「自分らしい人生とは何か」という落とし穴にはまっている人は多くいます。

キャリアを選択した人は、結婚や出産など「家庭」を重視しなかった自分に疑問を抱き、逆に家庭を選択した人は「仕事」を選ばなかった自分に葛藤します。

広島大学教育学博士、臨床心理士の岡本祐子さんによると、一般的に女性は「関係性」を重視するため、仕事や子育てなど、個人の目標達成だけでは満たされません。 特に女性は「出産のタイムリミット」が存在するため、40代が近づくと「子供を持つラストチャンス」に直面します。

子供を持つか、持たないか。あるいは、もう一人産むか、産まないか、キャリアや家計との折り合いをどうつけるか大きな選択肢に悩まされることになります。

子供を持っていたとしても、その成長に伴って子供の思春期や進学、就職などの悩みがつきものです。「子供を一人前に育てよう」とするあまり、逆に子供に干渉しすぎたり、子離れができなかったりしてしまいます。

女性は、あらゆる方面で適切に「自分と向き合う」姿勢が必要となるのです。

自分の人生を肯定するために

仕事が大成功しているエリートや、有名人、誰もがうらやむような家庭を持っている人でさえも、アルコール中毒や買い物依存症になったり、自殺やドラッグにはまってしまったりする場合があります。 これも、心の病というよりは「ミッドライフ・クライシス」に陥ってしまっている状態なのです。

「ミッドライフ・クライシス」はいわば中年期の思春期です。

心理学者のユングは、この個人の中の深刻な心理的な変化を「生の転換期(レーベンスヴェンデ)」と言い、これまで見えてこなかった問題や欲求に直面する時期がやって来るのはむしろ正常なことと唱えています。

自分を本当に理解できるのは自分だけです。他人の人生と比較するのをやめる、ありのままの姿を受け入れることが大切です。これまでの生き方でプラスになった部分を書き上げてみて、自分を客観的に見つめなおしてみるのもよいかもしれません。

また「ミッドライフ・クライシス」の症状は、プラスの影響ももたらします。美容に気を使ったり、髪型を変えることで自信を取り戻せた、運動をするようになって健康になった、といった良い効果もあります。

むしろ、積極的におしゃれに取り組んでみる、というのも新たな道を歩みはじめるきっかけ作りとしては有効な方法です。

中年期は人生の折り返し地点。うまくこの時期を乗り越えて、新しい道を歩んでいきたいですね。